No.1

2011-08-11

虎屋吉末

代表者
萬田博一
創業
1801年
業種
和菓子製造・小売
住所
神戸市東灘区御影本町4-1-1
電話
078-851-2444
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伝統をベースに革新を続ける和菓子の老舗

「虎屋吉末」は、享和元年(1801年)創業、酒蔵の地・御影にのれんを掲げて200年余りになる和菓子の老舗。それまでの廻船問屋をやめ、「虎屋」という名で和菓子屋を開いたのが始まり。酒蔵で栄える戦前の御影は、料理屋が軒を連ね、芸者が行き交い、馬車が闊歩する、賑やかな町であった。店内には、江戸時代から伝わる打ち物に使う木型が並べられ、歴史と伝統を感じさせる。現在、7代目店主の萬田博一氏がのれんを守り続けている。

萬田氏は、「流行を追いかけても、大手企業には敵わない。世の中が急速に変化している今だからこそ、一時の流行に惑わされず、本当に価値のある味を守り続けていきたい。当社では、創業以来、添加物を一切使わず、小豆などの厳選素材や恵まれた宮水にこだわってきた。このこだわりは、今もこれからも変わることはない。お客様に心から安心してお召し上がり頂ける御菓子づくりを目指して、日々精進しています」と語る。
一方で、「これまでのように伝承だけでは、今の若い人に振り向いてもらえない難しさもある。将来に渡って当社の商品を選んで頂くためにも、5年先、10年先を見据えて、今、チャレンジすることが重要。後継の息子には、素材や製法へのこだわりを守り続けながらも、これまでにない自由な発想で、商品開発やサービスの提案を行い、若い年代層との新たな“つながり”を築いてもらいたい」と期待を寄せる。
お客様への安心感を与えるお店として、消費者に対する約束を果たすことで築き上げられた「老舗ブランド」がここにある。

「虎屋吉末」の和菓子づくりの原点は、「原材料や水にこだわり、手間暇をかけて、お客様が安心して召し上がって頂ける商品づくり」にある。
「一般のメーカーであれば、生産量を増やすために効率を追求するが、当社は、たとえ非効率であっても、職人手作りの製法にこだわり、生産量を増やすための機械化や事業規模の拡大などは、全く考えていない」という。
時を超え、広く看板商品として愛されている「天津知羊羹(でっちようかん)」は、北海道十勝産の「みがき小豆」を使い、添加物を一切加えない自家製餡、六甲山伏流水を使った銘菓である。
「小豆の炊き方や砂糖の配合ひとつで、全く違った餡が出来上がってしまう。餡が変わると全ての商品が変わってしまうので、伝統の味を変えないよう、毎日が真剣勝負です」と、7代目から引き継ぐ息子の悠介さん。
「材料一つ、配合一つ、試行錯誤を繰り返しながら、日々研究を重ねている。目に見えない所で手を抜くと、お客様は自然と離れてしまう。そのためにもこだわりを持った商品を提案し続けたい」商品に対する徹底したこだわりが、お客様との信頼信用関係を構築し、老舗の個性・独自性に結び付いている。

「チラシや広告など、特別な販促活動は一切行っていない。そうした中でも、地元の方々が“虎屋吉末”のお菓子を選び、買い求め頂けることは本当にありがたい」と萬田氏。
平成7年、阪神・淡路大震災で大きな被害を受け、文化財級の旧店舗が全壊した。事業存続の危機に直面したが、奇跡的に六甲山の伏流水の井戸水が枯れなかったことと、地域住民との“つながり”が事業再開の後押しとなり、創業当時と同じ場所で営業を続けている。
「震災当時は、近隣住民の方々から「店はいつ再開するのか」や「早く再開してほしい」といった、多くの励ましの声を頂き、大変有難かった。地域密着型の店舗として、地域住民との“絆”をこれからも大切にしていきたい」と振り返る。

萬田氏は「ここ数年、特にリーマンショック以降、消費者の物を見る価値観が大きく変化してきた」と指摘。また、一番の懸念材料として「少子化の進行」を挙げ、「先祖代々伝えられてきた和の文化が、家族内でも伝承されていないことが、一番怖い」と危機感を抱いている。
こうした状況の中、京都の和菓子屋で5年間の修業を終えた悠介さんは、これまでにない新たな商品開発に力を入れている。
「添加物を一切使わず、厳選素材と水にこだわるという、基本的な部分は変えない。新たな可能性を求めて、和菓子に合ったフルーツや野菜などの組み合わせも研究し、子供や若年層が関心を高める商品づくりに挑戦していきたい」と悠介さんは意欲的だ。
「日本の和の文化を外国人の方にも味わってもらいたい」と、悠介さんが試行錯誤を重ねて開発した新商品が、和三盆糖を使った干菓子「六甲彩」である。
六甲山の四季の彩りをかわいい山形の粒で表現した新感覚の和菓子で、添加物を一切使わず、5種類の味(木イチゴ、マンゴー、梅、ミント、苺)が楽しめる。「和三盆は、とろけるような口溶けが独特で、紅茶やコーヒーとの相性も抜群です」と悠介さん。
一つ一つが全て手作りで、機械では決して真似ができない技術と配合のバランスは絶妙で、“匠”の技が光っている。
老舗と呼ばれることにあぐらをかかず、常識や伝統に縛られない様々な取り組みが、新しい顧客を開拓し、既存の客にも新鮮な驚きを与えている。
老舗たる所以がここにある。

(東神戸支部 経営指導員 小林和弘)