No.23

2012-05-25

有限会社平和レコード店

代表者
小田泰之
創業
1964年
業種
CD、DVD、ミュージックテープ販売
住所
神戸市長田区若松町5-5-1ジョイプラザ2F(センティ店)
電話
078-612-8415
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「街のレコード屋」の使命

 1955年頃、現社長泰之氏の伯父 道玄氏が長田区腕塚町(現:アスタくにづか1番館周辺)でレコード盤、レコード針販売、オーディオ機器修理業を開業。店舗を大正筋商店街、六間道商店街(現:本店)と移転した後、会社勤めの傍ら事業を手伝っていた父 要氏が事業を引継ぎ、1964年に当社を設立した。レコードが、まだ、少し贅沢品で徐々に普及している時代であったため、新長田周辺にも数軒のレコード店があったが、当店はその中でも弱小店であったという。

 レコード業界は1980年代後半に売上のピークを迎える。その後、レコードからCDへの移行が進むが、当時はメーカー、小売店ともにまだ体力があったため、各小売店は商品の無償交換、返品等により、スムーズにCDに移行することができた。
 この時期、現社長の泰之氏が他店での6年間の修行を終え、営業部長として当社に入社する。売上を伸ばすためにも、本店よりも立地の良い場所で2号店を開店したいと考え、物件を捜すものの、なかなか条件に合う店舗が見つからない。1999年になり、ようやく新長田駅前のジョイプラザ2階に念願の「センティ店」を開店。その2年後、父が亡くなり事業を引き継ぐ。

 それまで泰之氏は、店の資金繰りや対外的な活動等、経営全般は父に任せ、販売に専念してきたが、突然、経営者としての仕事をこなさなければならなくなった。この時期は、当時はよく売れていた映画等のビデオからDVDへの転換期と重なる。CDへの移行時とは大きく違い、ビデオの在庫はメーカーに引き取ってもらえず、資金繰りが悪化する小売店が続出する厳しい時代の船出となった。

 

 レンタルの普及に加え、ネット配信の劇的な浸透により、CD市場は急速に縮小してきている。大手小売店も苦戦する中、街の小さな小売店が生き残るのは、並大抵のことではない。周辺でもCD・カセットテープを扱う店は、当社の2店だけとなってしまった。
 「『街のレコード屋』と同様に『街の本屋』も減ってきている。これらの店がなくなっていくのは、地元からひとつの文化がなくなっていくことに等しい。街のレコード屋や本屋がなくなると、ネットに対応できない年配層は、音楽や文学のない暮らしとなる。大げさかもしれないが、「街の文化を守っていく」という思いで、店をなんとか続けている。近所のお店が閉店し、遠くからわざわざ電車に乗って買いに来ていただいているお客さんのためにも、なんとか生き残っていかないといけない」と泰之氏は『街のレコード屋』としての気概を語る。

 大手小売店では見かけることがなくなったカセットテープも、本店に来店する年配のお客さんにはまだまだ売れているという。お客さんからは「我々のためにもずっと頑張って続けてほしい」との声を聞く。しかし、全ての商品を揃えることはできないため、商品がない場合は、取り寄せで対応をしている。CDは原則買取りとなるため、10枚仕入れ、1枚売れ残ると利益がでない。新譜発売の際は、悩んだ末に、数枚単位で発注枚数を決めている。お客さんには迷惑をかけることになるが、生き残るための苦汁の選択だ。受注したものだけを発注すればロスが出ず、効率的だが、それでは店として成り立たないため、できるだけ定番は揃えていくようにしている。

 新譜の紹介は、毎月メーカーから送付される情報誌をめくり、自店のお客さんの顔を思い浮かべて、ピックアップし、できるだけ手書きで作ったものを掲示している。古いかもしれないが、パソコンで作るより、手書きの方が、温かみがあるからだ。アナログの商売である。世の中はデジタル、効率一辺倒から、少し対面販売やアナログへ戻る兆しも出てきているが、経費を限界まで削減してなんとかしのいでいるのが現状だ。
 近く、小売店とメーカー間の新譜情報の交換・発注方法も、全面的にネットに切り替わるという。「これを機に、厳しい環境の中、なんとか踏みとどまっている高齢の経営者が多い地方のレコード店の中には、やめようというところが多数出てくるかもしれない」泰之氏はつぶやく。

 泰之氏が入社した頃には、現在の状況は全く想像ができなかった。媒体が変わることは予想できたが、ネット配信により、小売店以外で音楽が販売されるとは思ってもいなかったという。まわりからは「まだ頑張っているんや」とよくいわれる。
 この状況で、商売を子供に継がせるという選択肢はない。不況時は娯楽や嗜好品はどうしても節約される。しかし、震災などの辛いときにも音楽が人の心を勇気づけたように、人が音楽を聴くということはなくならないことも確かだ。「昔ながらのレコード店がなくなってもええんか、この店は絶対になくさない」と心に刻んでこれからもやっていくしかない。

 「『商い』として、店をどう維持していくか。こぢんまりとした小さなお店の魅力をどう出していくか。最終的に生き残るために小さい店にしかできないことは、それぞれのお客さんの好みを覚え、そのニーズにひとつひとつ応えていくこと。そして来店することが楽しいと思えるような、癒しと憩いの場となるように心掛けるなど、当店を気に入って通い続けてくれる地元の人を大事にしていくしかない」。街の音楽文化を守る戦いは続く。

(経営指導員 納田秀史)