No.2

2011-08-11

有限会社マルヤ靴店

代表者
片山泰造
創業
1917年
業種
ダンスシューズ、オリジナル学生靴、婦人紳士靴販売
住所
神戸市中央区元町通6-7-2
電話
078-341-3457
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一億通りへの挑戦

12歳で三田から元町にあった炭川靴店(炭と革を扱っていたのが店名の由来)に丁稚奉公として出てきた先々代にあたる祖父が、20歳のときに稼いだお金を元手に、当時一番賑やかだった元町6丁目にて独立開業した。屋号は、なんでも丸く収まるように「マルヤ」と名付けられた。革底を手縫いしたオーダー商品は、一足が初任給の一ヶ月分ほどの価格で大変高価であったが、当時の富裕層・エリート層が下駄履きから靴へと移行していく時代で、順に需要が拡大し、繁盛していった靴店は草分け的な商売だったという。
20名ほどの職人を抱え、お客様が来店し、採寸し、後日お渡しするという、全てオーダーメイドの靴店を経営する祖父。その祖父から現店主で3代目の泰造氏は、商売の基本をたたき込まれた。泰造氏が18歳のときに祖父は亡くなり、店を継いだ父は、頑固者で先々代から受け継いだことを守り抜き、80歳まで商売をした。泰造氏は大学を卒業後、一旦貿易関係の会社に勤めていたが、27歳のときに「生まれ育った元町が好きだし、靴屋が自分に向いている」と店の後継者となり経営に参画した。

「一億の人がいたら、一億通りの足がある。人の足は、5ミリの区切りだけでは済まないし、左右の大きさも同じではない。ひとりひとり足の形は違うので、靴の専門店なのだから、合う靴を勧めなければ意味がない」泰造氏はいう。機械靴(大量生産のメーカー品)でも、必要な場合は、革を少し伸ばしたりして、微調整の後、お客様にお渡ししている。微調整をするためには、店主の長年の経験に裏打ちされたフィッティングの技術が不可欠である。また、どんなにお客様がデザインや色が気に入った靴でも、その人の足に合わないものは販売しないというのが店のこだわりである。
大量生産が主流の今でも、品質と履き心地へのこだわりは先々代から変わっていない。

商品仕入れの際は、仕上げ・革の質・内装材等に良いものが使われているかといった点を厳しくチェックしている。素材を落とせばいくらでも安いものはできるが、どうしても落とせない部分はあり、他店と価格面で争うことは考えていない。「お客さんにとって、良い靴を履くというのは、履き心地も良く、健康にもつながる。長期間履けるため、結果として経済的でもある」
「靴に関するアドバイスは誰にも負けない。問屋から支店を出せとよく言われるが、目が行き届かなくなるので、創業当初から支店は出していない」専門店ならではのこだわりが垣間見える。
品揃えとしては、あえて流行りの靴は置かず、足に負担の少ない、足の甲を多く覆った定番の長く履けるものを中心に扱っている。靴を買われる際には、メーカーによってサイズ等が違うため、先入観を持たずにサイズを見ないで、まず、履いてみることを勧めるとのこと。
父の見よう見まねで、自然に靴の構造やミシンの扱いを覚えた。全部ばらして底を貼りかえたりすれば何十年も履くことができる。自分で仕入れた靴は全部覚えているので、他店の商品を持ち込まれたらすぐにわかるが、他店の商品も修理を受けている。ほとんどの修理はメーカーに出すことなく、この店で完結する。

当店が、祖父、父、泰造氏と代替わりをしたように、お客様も自分の子供を連れて来店していただくうちに三代に亘ってお得意様という方もいる。また、転勤等で遠くへ行かれた方も、ずっと同じ場所に店があるから、神戸に来た際は、訪ねてくれるそうだ。靴に対する信頼とお客の足をいたわる心遣いがお客と店を結んでいる。

「商売は細く長く、物事は中庸が良い。真中をずっと行っとけ!」、「本業だけやって、他のええ話には手を出すな!」祖父の残した経営訓である。
創業者からの教えを堅実に守り、バブル期にも他業に走らずやってきたので、特に大きな失敗はないが、中庸を守るには新たな取り組みも必要だ。
30年前から、社交ダンスシューズのオーダーを扱い始めた。全く宣伝していないが、ここにしかない商品、オリジナルで人の履いてない靴が欲しいと、口コミで引き合いは増えていっている。男性は黒い靴一足で間に合うが、女性は、衣装ごとに合わせて購入するので数が増える。3~4週間で納品できるということもあって、横浜、舞鶴、呉等、遠方からのお客さんも多い。ダンスシューズを扱うようになったのも、社交ダンスの先生が購買先を捜していたので、それならばウチがやりますと、最初は定番商品だけを扱い、徐々にアイテム数を増やしていった。泰造氏はご自身を「石橋を叩いて渡る性格だ」という。
一緒に店をしていた泰造氏のお姉さんが亡くなったこともきっかけとなり、息子の喜市郎氏は勤めていた会社を退職し、現在、マルヤ靴店に隣接するビルで、鞄・革小物製造販売業を手掛けている(店名:STUDIO KIICHI)。現時点では後継者になるかは未定とのことだが、泰造氏は四代目として大いに期待を寄せている。

(中央支部 経営指導員 納田秀史)