No.3

2011-08-11

ヤマモトヤ

代表者
山本豈夫
創業
1911年
業種
工具・刃物・DIY用品小売、鍵取付工事一式
住所
神戸市長田区久保町3-2-8
電話
078-631-5055
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職人魂を受け継ぐ金物店

1911年に三木市の鋸工場で目立て職人をしていた山本好一さん(現代表の祖父)が、神戸地方裁判所の近くで金物店を営んでいた兄の勧めもあり、現在の場所(神戸市長田区久保町3)に大工道具や左官道具を中心とした店を開いたのがはじまり。当時、店の北には林田区役所(1945年行政区の再編で廃止)があるなど、周辺は新長田の中でも早くから賑わっていた。通りには、家具工房が立ち並び、木工職人が数多く働いていたため、道具の修理と販売の店を出すにはうってつけの場所と考えたのである。
その目論見は見事に当たり、鋸の製造現場で磨かれた目立て技術と三木の名工が製作した大工道具は、すぐに評判となり多くのお客さんで賑わった。
その後、息子の寿司さん(現代表の父)が店を継ぐが第2次世界大戦で戦死、嫁の伸さんを経て、1961年に現代表の山本豈夫さんが4代目として店を引き継いだ。

創業以来、「いい物」を揃え、修理しながら「長く」使ってもらうというのが店の一貫した方針。
普及品も置いているが、包丁は柄の交換ができる昔ながらの和包丁を中心に取り扱う。ハサミも、鍛造品(プロ向け)と製造コスト押さえた鋳造品があるが、ヤマモトヤでは鍛造品を中心に取り揃えており、靴の製造関係者などが究極の切れ味を求めて買いに来る。
また、「地域あってこその個店」というのも家訓で、震災後、新長田駅南地区の商店街・市場が一丸となって、新長田を「お好みの焼きのまち」として売り出す取り組みを盛り上げるため、約10年前から厚さが6ミリもある本格的な家庭用鉄板を金物の町・三木から取り寄せ販売している。

商品へのこだわりは消耗品にまで徹底されている。例えばガムテープなら「強度」とともに、ハサミを使わずとも手で簡単に切れるという「使いやすさ」も重視している。
また、スペアキーの製作は特に自慢のサービスで、ヤマモトヤで作った鍵は良く合うと評判。他店では断られるようなスペアキーの製作でも気軽に引き受け、不具合があれば、スムーズに使えるようになるまで何度でも調整してくれる(※ロックされた鍵の解錠や内溝のキーの製作は行っておりません)。
さらに、販売した商品は、その寿命が来るまで責任を持って手入れや修理を行うという信念から、刃物研ぎや包丁の修理も自店で行うというこだわりぶりだ。

震災前まで、お客さんの半分ぐらいが大工だったので朝は7時から店を開け、閉店は午後7時。通勤前にスペアキーの製作を依頼すれば帰りに受け取れると重宝されている。
また、山本さんは、民生委員、ふれあい街づくり協議会役員、商店街の役員、地域安全パトロール隊員、スティールパン(トリニダード・トバゴの打楽器)のバンド代表など、多くの顔を持っているため、その人柄の良さから、お客さんだけでなく、子供から老人まで多数の地域住民が店を訪れる。小学生がゲーム機をなくしたと泣きながら店に来たり、近所の人が申し訳なさそうにホームセンターで買った散水ホースを取りつけたが、水が漏れて困るといって相談に来る。

「誠実」、「堅実」、「地道」に営業してきたので大きな成功も失敗もないが、あえて挙げるなら成功は奥さんと結婚したこと。「夫婦で六甲全山縦走をしたり、還暦を記念にフルマラソンに挑戦したり、スティールパンの演奏も楽しんでいる、そして、大切な店がつぶれずにあるのも女房がいたからこそ」と山本さん。
失敗は丁寧すぎる接客。「その商品はプロ用なので、あなたには、こちらの安い方で十分ですよ」などと、親切のつもりが、つい余計な事を言ってしまい、お客さんを怒らせてしまった回数は両手の指だけでは数え切れない。
また、伝統的な大工道具を扱ってきたがゆえに、「大工道具の電動化の波に乗れず、商売を拡大するチャンスは失ったかもしれないが、後悔はない」という。

山本さんが、店を継いでから、すでに半世紀。小さな浮き沈みはあったものの建築業界や地場産業であるケミカルシューズ産業の成長とともに業況は比較的順調に推移してきた。しかし、震災後の復旧が一段落してからは、建築需要の衰退や安価な輸入製品の流入、靴業界の衰退などにより、中心商品の大工道具や刃物の売上が減少してきた。平成8年に心機一転、屋号を創業時の「山本金物店」から「ヤマモトヤ」に変更、本業に関連した新分野にも次々挑戦している。
第一は、スペアキー製作でなじみのある「鍵」に関連して、リフォームや引っ越しに伴う鍵の交換や、防犯性能の高い錠の取り付け。これは、近年の全国的な防犯に対する意識の高まりに加え、近くのインテリア関係のお店がお客さんを紹介してくれたおかげもあり、一気に売上の50%を占めるまでになった。
第二は、それに付随したドアの修理、網戸の張り替えなど。工務店を呼ぶほどではないが高齢者等が自分でするには難しい作業を気軽に引き受けている。これらは時間がかかる割に料金をいただけないので金銭的には赤字かもしれないが、作業後のお客さんとの語らい、そして地域を支えているという達成感が何よりの報酬とのこと。

(西神戸支部 経営指導員 藤原康展)