No.24

2012-05-25

イトシマ(カジュアル衣料「reaction」)

代表者
糸島洋二朗
創業
1967年
業種
カジュアル衣料販売、刺繍・プリント
住所
神戸市垂水区御霊町6-34
電話
078‐706-2360
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付加価値を追求し続ける衣料品店

 先代の糸島成豪(しげひで)氏は、神戸市内の作業服メーカーで製造から販売まで、一連のノウハウを学び、昭和42年、兵庫区で作業服店を開業した。開業時の手持ち資金は乏しく、大阪・本町の問屋街で仕入れた生地で作業服を縫製し、売れた代金で次の生地を仕入れる自転車操業が続いていた。「人を雇う余裕もなかったので、婦人服店の経営経験があった祖母に店番を手伝ってもらっていた。商売を続けていくのに必死だった」と当時を振り返る。

 時代は高度経済成長期、苦しいながらも好景気の追い風を受け、徐々に事業も軌道に乗り出したが、家主の都合で借りていた店舗を離れることになり、町工場が密集する尼崎に商機を見出して移転した。尼崎でも順調に売上を伸ばしていたが、自身が生まれ育った神戸の恵まれた生活環境で幼い息子を育てたいとの思いが強くなり、昭和57年、神戸市垂水区で店舗兼住宅を購入することを決意した。

 昨年2月に事業を引き継いだ息子の洋二朗氏は、「物心ついた頃から自宅で商売をしており、いずれは自分も商売をしたいと考えるようになった。当時の作業服店は、ワークパンツとして作業服と一緒にジーンズを販売しており、子供の頃からジーンズに対する愛着は強かった」と語る。2代目にあたる洋二朗氏は、学校を卒業後、日用品の卸売会社を経て、日本の有名ジーンズメーカーに入社、主に店頭での接客に従事した。「ジーンズは、幅広い年代で愛好家も多いので、お客様の様々なご質問やご要望にお応えできるよう、商品に関する知識を徹底的に学んだ」と語る。

 その後、ジーンズの裾上げ技術を磨くべく、昨今、衣料業界で躍進する国内最大手のカジュアル衣料店に移った。「1日に取り扱うジーンズの本数が桁違いに多く、半年間で裾上げの技術が飛躍的に身に着いた。接客技術についても更に磨きをかける機会になった」と修行を積み重ねた雌伏の日々を振り返る。

 平成13年、成豪氏は作業服店の近くに、新たにジーンズ部門を独立させたカジュアル衣料店「reaction」を出店。その運営を洋二朗氏が担うこととなり、数年後、成豪氏は作業服店を含め、事業全体の経営を洋二朗氏に委ねることにした。洋二朗氏のこだわりや修行の成果を存分に活かした「reaction」の魅力は、センスの良いカジュアル衣料の販売に止まらない。

 2年前に15色の糸の組み合わせを1台で加工できる最新鋭の高性能ミシン導入。イージス艦を思わせるコンピューター制御のモンスターミシンが、店の中心に鎮座している。その性能をフルに活用すべく、日々勉強に努め、街の顧客の要望に応じたきめ細かな刺繍やプリントサービスも提供している。既存のデザインに飽き足らないバイクツーリングのチームや釣りクラブ等からの引き合いが後を絶たない。「納期が早く、仕上がりが丁寧なので、安心して仕事を任せられる」と成豪氏は2代目の腕前に屈託なく微笑む。

  創業期に生地から作業服を縫い上げた経験を持つ成豪氏は、「実用品である作業服は、機能性を最も重視している。メーカーが、規格通りに作ったと言い張っても、実際の縫製を細かく確認し、着心地や動き易さに違和感があれば、躊躇無くメーカーに返品する」と厳しい口調で語る。商売をする以上、“常に誠実であれ”と自らに課してきた。

 長年に亘り、父親が守り続けてきた商売に対する誠実な姿勢は、息子の洋二朗氏にも確実に受け継がれている。「品質と値段の合わないジーンズは絶対に売らない。ブランド名に惑わされず、自分の価値観を軸にして商品を厳しく見極めている」と表情を引き締める。また、既製品を独自の刺繍とデザインで加工し、商品に“個性”を与えて付加価値を高めるサービスは、「大手量販店では真似することは出来ない」と胸を張る。

  顧客からの要望には、出来る限り応えることを心掛けている。顧客と共に刺繍デザインや加工方法を模索しながら、唯一無二のお気に入りアイテムを生み出す努力を決して惜しまない。特に、顧客の頭にあるイメージをデザインに落とし込む作業では、丁寧に要望を聞き取りながら、何度も摺り合わせを繰り返している。

 

 洋二朗氏は、特に印象に残っている仕事がある。「ある日、愛犬を亡くして気落ちした女性から、存在をいつも感じられるよう愛犬をイメージしたTシャツを作って欲しいと頼まれた。何度も話し合いを重ね、記憶の中にあるイメージと一致するデザインに仕上がった時、最高の笑顔を見せてくれた」と心を込めた仕事から得られる喜びを語ってくれた。

 平日には、地元の常連客で小さな店内は賑わっており、中学生から70歳までと客層は幅広く、孫を連れて来るお客さんもいるという。洋二朗氏は、「改めてアメカジ(アメリカンカジュアル)の裾野は広いと感じている。世代を超えたファッション談義で盛り上がることも多い」と目を細める。

  大手カジュアル衣料品店や総合スーパーが安価なジーンズの販売を始めると、業界内の価格が一気に値崩れを始めた。激烈な価格競争が進むカジュアル衣料業界では、大手量販店の強大な資本力、豊富な品揃えに圧倒されて、小さな個人商店は、極めて厳しい経営環境に晒されている。

 地域で奮闘する小さな衣料専門店には、価格競争とは異なる領域で存在感を高め、顧客に密着した接客やサービス強化により、店舗独自の特徴を磨いていくことが求められる。成豪氏は、「商品を仕入れて売るだけでは、消費者に見向きもされない。プラスアルファの付加価値の提供が必要。何か細かな工夫を加えたサービスを提供しないとTシャツすら売れない」と厳しい表情で語る。洋二朗氏も「先行き厳しい時代だからこそ、商品を並べて売るだけでなく、商品に細かな加工を施したオリジナルアイテムで個性を発揮していきたい」と続けた。今後の生き抜く道を確信するこの父子に揺るぎない自信を感じた。

(経営指導員 髙森良明)