No.17

2011-12-27

㈲サクライ写真館

代表者
櫻井泰萬
創業
1924年
業種
写真撮影
住所
神戸市東灘区御影中町3-1-19
電話
078-851-2739
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人生の瞬間をプロの手で

 阪神「御影」駅の北側に、戦前から続く老舗の写真館、「サクライ写真館」がある。大正13年に創業者である現代表の祖父が、御影・伊丹・須磨の3ヶ所で写真館を開いたのが始まり。
 高齢の父親から事業を引き継ぐことになった現代表の櫻井泰(やす)萬(かず)氏だが、その頃すでに塗料商社の営業マンとして5年のキャリアを積んでいたこともあり、「まさか自分が写真屋を引き継ぐとは考えていなかった」という。とは言え、学生時代から自ら起業することを考えていた櫻井氏は、大手メーカーを相手に商談を重ねる中で、売るだけではなく技術的な裏づけの大切さを学んでいた。口先だけではなく、技術がないといけない。技術を身に付け、技術を売る商売として“写真業”に魅力を感じ、23歳でこの道に進むことを決意した。

 写真について全くの素人であった櫻井氏は、勤務先を退職後、伊丹の写真館で修業した。「朝9時から夜9時までは店の仕事に励み、それから撮影技術を学ぶ毎日で、休日は撮影練習の為、京都の観光地によく出掛け、風景写真の勉強をした」と3年間の修業時代を振り返る。晴れて修業を終え、御影店を任されてからは、1年半ぐらいで店の売上を倍にした。その後、先代が引退、自身が事業を継承し、この道一本しかないと腹を括った。
 同店では、「写真技術の高さはもちろん、良い物を手を抜かず作ること」をモットーに据える。たとえ証明写真一枚であっても、一切手を抜かない。時間をかけて細かな修整・仕上げ作業を行い、常にクオリティの高い写真を顧客に提供している。

 プロとアマチュアカメラマンの違いについては、「被写体の顔を一目見て、撮影する顔の方向や光の当て方など、どう撮れば一番自然で良い表情になるかを、瞬時に頭でイメージできるのがプロ」だという。被写体が自然な表情になるよう、場を和ませる演出にも気を配りながら、その人の良さを最大限引き出していく。「口は写真に写らない。口でポーズ等をリードし、被写体にうまく集中してもらう」のがコツという。
 また、「“下手な鉄砲数打ちゃ当たらない”のが、写真の世界。頭でイメージする写真が撮れればそれ以上は必要ない」。極力シャッターを切らず、1ポーズ平均2~3枚で最高の瞬間を切り取る集中力は、まさに職人技である。「一生の間に写真館で写真を撮るのは数回。さすがプロの写真館といわれたい」と櫻井氏。

 写真館として地域との繋がりを大切にする櫻井氏は、記念アルバムを中心に幼稚園や小学校、中学校での行事撮影を行う「学校写真」も、長年手掛けている。アルバムの制作にあたっては、全体企画・構成や写真選定、編集からページ割まで一括して引受けるが、「卒業生が大人になってアルバムを見返した時に、どのページも同じような記録写真だけでは面白くない」と、授業風景を一枚撮るのも妥協しない。
 担当教師と事前に打合せをし、巧みな話術でその場を盛上げながらシャッターを切ると、表情豊かな子供たちの授業風景が出来上がる。洗練された写真技術に加えて、創意工夫を凝らして完成した「記念アルバム」は評価が高く、先代の時代から60年以上にわたって、アルバムを作り続けている学校もあり、信頼の厚さを物語っている。今では、記念アルバムに限らず、学校の募集案内や広報冊子等の広告媒体も手掛けるなど、業務の幅を拡げている。

 また、お宮参り・七五三・成人式、家族の記念写真から証明写真まで、普段の撮影を行うスタジオは、奥行きと横幅がある広々としたスペースが特徴的。櫻井氏は「このサイズの撮影スタジオは珍しく、奥行きのあるスタジオで撮ることで被写体が浮き立ち、遠近感のある立体的な写真に仕上がる」と、写真をより美しく表現できるスタジオの特性を活かしている。
 「お客様との信頼関係あっての仕事。お客様の評判が評判を呼ぶ店になりたいと、真面目で丁寧な仕事を心掛け40年間続けてきた」と、櫻井氏。「自分が小さい頃から家族の節目ごとに利用していた。自分の娘の写真を撮る時はこの店と決めていた」と遠方から訪れる常連客や、幼稚園入学から小学校卒業まで8年間、学校写真で付き合いのある馴染みの子供達が受験や就職写真を撮りに来店することもあるという。

 順風満帆に見える同店にも、事業存続に関わる危機があった。櫻井氏42歳、高度成長の中、売上を順調に伸ばし、経営者としてこれからという時期に、大病を患い3年間の休養を余儀なくされた。「商売を継続できたのは家族や写真家仲間の支えがあったから。お陰で、何とか困難を乗り越えることが出来た」と周囲への感謝の気持ちを今も忘れない。
 また、デジタル化の波が到来し、フィルムからデジタルに対応した新たな技術を次々と修得していかなければならないが、櫻井氏は自分の技術や知識・感性を高める努力を欠かさない。今でも電車に乗ると人の顔を見ているという。角度、バランス、写真写りが良いのはどこかを常に考える。

 日々自己研鑽を怠らず、地道な努力を積み重ねることで「信頼・信用」を築き、地域に愛され続ける「サクライ写真館」。商売を続けていく秘訣について「自分の持っている技術やお客様にサービスすることを惜しまないこと」と櫻井氏。その姿に、写真のプロフェッショナルとしての信念と誇りを感じた。

(経営指導員 小林和弘)