No.7

2011-08-31

美味園

代表者
小野竜一
創業
1971年
業種
中華料理店
住所
神戸市中央区北本町通5-1-27
電話
078-251-2369
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独自の味を支える妥協なき仕込み

 創業は1971年、先代小野清氏が神戸で60年以上の歴史を誇る“太平閣”で経験を積んだ後、独立して旧葺合区に店を構えた。当時は、集合住宅や工場が混在しており、昼どきになると、次々に色んなお客さんが出入りする慌ただしい店であった。後に2代目となる息子の竜一氏は、小学生になると、大きな中華鍋を豪快に振る父の姿に憧れ、こっそり真似をして、徐々に技術と味の感覚を体得していった。高校生になる頃には、先代から調理人として認められ、一緒に肩を並べて厨房に立つようになり、ごく当たり前に家業を手伝ううちに、自然の流れで店を引き継ぐことになった。

 「独自の味を守れるかが中華料理店の生命線である。仕込みには、手間と時間を要するが、インスタント食材には絶対に手を出さない」と語る竜一氏。特にお店の看板ともいうべきスープの質には絶対の自信を持っており、作り置きは一切していない。毎日水から炊いて仕込まれたスープが、全ての料理の味を決定づける重要な鍵となっている。
 また、焼き豚の素材となる豚バラ肉も肉質や赤身と白身のバランスにこだわって仕入れている。納入業者からは、「ある程度の肉質のバラつきは容赦して欲しい」と言われることもあるが、頑なに自分の基準は曲げないという。

 近年はチェーン化された飲食店が増え、素材にこだわりを持つ店は年々少なくなってきているが、竜一氏は、「全国均一の味では面白みが無い。自分のお店を構えている誇りを守るため、先代から続く美味園の味を守るため、毎日の仕込みに一切の手抜きは許されない」と力強く語る。こうして提供される料理は、スープをはじめ、素材の鮮度、調理技術といった様々な要素が重なり合い、店独自の旨みを見事に紡ぎあげている。

 また、顧客サービスにもこだわりが感じられる。竜一氏は、「わざわざお店に足を運んでくれたお客さんには、料理の味やサービスに期待以上の満足を感じて欲しい。例えば、続けて同じ具材を皿に残している場合は、次からは別の具材を使って調理するなど、お客さんの好みにも気を配っている」と言う。自分の料理を一方的に提供するだけでなく、お客さんの表情や心情を察した人肌感覚の接客を大切にしている姿勢が垣間見える。

 長年に亘り、地元の変わらぬ味を提供し続けてきたお店が得られる喜びとして、世代を超えて来てくれるお客さんの存在を挙げる。竜一氏は、「小さな頃から通ってくれた子供が里帰りした際、親子三代で店に顔を出してくれると嬉しくなる」と微笑む。
 阪神・淡路大震災では、現在の隣接地にあった以前の店舗が全壊した。しばらく商売が出来なくなったが、常連のお客さんが店先に会社の電話番号と再開後に連絡を望むメッセージを書き置きしてくれて励まされたという。「店を開けたら、お客さんが来てくれる。絶望の中で再開に向けた希望を感じた」と当時を思い起こす。

 また、地域で愛されながら長く商売を続ける秘訣として、お客さんの期待以上の成果を出し続け、顧客から安心して任される信頼関係を挙げる。「お祝い事や法事の注文は、お客さんが信頼して注文してくれている。事前に十分に話し合い、オードブルの目的と参加者の顔触れなどを考えて作っている」と顧客との綿密な擦り合わせの手間を惜しまず、細かな要望にも全力で応える姿勢を貫いてきた。

 料理の基本は段取りの良さであり、先を見越した周到な事前準備は欠かせない。突発的なことが起きても慌てず対応するため、時間に余裕を持って用意するよう常に心掛けている。「“先んずれば人を制す”、毎朝3時半に起きて4時から店で仕込みを始める。これまで20数年間、毎日続けている習慣だが全く苦痛ではない」と同じリズムで刻んできた日々を語る。

 低価格や広い駐車場などで、消費者を呼び込む全国チェーン店の攻勢が強まる一方、売上を支えてきた常連客の高齢化により、家族経営の小さな飲食店は、かつてない厳しい経営環境に晒されている。竜一氏は、「確かに時代は厳しい方向に向かっている。お客さんの行動にも変化が出てきたが、周囲の動きに振り回されず、先代から引き継いだ味、お客さんに対する姿勢を変わらず続けていく」と今後も自然体であり続けると強調する。

 顧客の喜ぶ姿を明確にイメージしながら、地域に根を張って提供してきた料理の一品一品に、店主の積み上げてきた揺るぎない自信が感じられる。全国展開する大手チェーン店では容易に真似できない、個店だからこそ発揮出来る強みを磨き続け、地域住民に愛される店として存在感を発揮してきた。激しい環境変化にも惑わされず、独自の価値を一途に守り続ける2代目店主に気骨ある料理人の魂を感じた。

(経営指導員 高森良明)