No.32

2012-10-15

関西製菓株式会社

代表者
今岡猛實
創業
1968年
業種
神戸瓦煎餅製造
住所
神戸市西区白水1-5-9
電話
078-974-1302
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瓦煎餅に人生を懸ける職人の飽くなき挑戦

創業は昭和43年、今岡猛實(たけみ)氏が、神戸市内の菓子卸問屋に勤めた経験を生かして、須磨区にある農家の一間に事務所を構え、菓子卸売業を始めた。

卸先である近隣の小さなスーパーや市場の菓子店に飛び込み営業を仕掛け、売り場の的確な棚割り提案や商品補充などの迅速な対応力が高く評価され、着実に売上高を伸ばしていった。しかし、大型スーパーが軒並み郊外に進出し始めると、取引先の業況が悪化し、卸問屋の廃業が相次いだ。今岡氏は、「大手メーカーの商品を扱っているだけでは、小さな卸売店は確実に淘汰されてしまう。他にはない商材を自ら生み出し、市場に仕掛けていく必要性を感じた」と製造業に業態転換した経緯を語る。

神戸の代表的な銘菓である瓦煎餅の製造工場で修行を始めると、無我夢中で技術の習得に励み、やがて手焼き煎餅の製造工程で最も難しいとされる鉄板を回しながら焼く「型返し」を任されるようになった。今岡氏は、「朝から晩まで熱い火床に座りながら重たい鉄板と格闘した日々は、煎餅づくりに懸ける情熱の源になっている」と振り返る。昭和47年、西区の現在地に全ての資財を投げ打って土地と建物を購入。「大手メーカーに負けない地域発の菓子づくりに挑む」という夢の実現に向けて、小さな菓子工場は田園地帯で静かに稼働を始めた。

同工場では、卵、小麦粉、砂糖、水というシンプルな原材料のみで添加物などは一切使用しない。今岡氏は、「大手スーパーや全国の生協からの要請で、取引先のプライベートブランドとして製造しており、安心と安全には徹底的にこだわる」と語る。また、原材料の選別に一切の妥協はなく、瓦煎餅に最適な風味を持つ卵を見つけると、生卵で食べられる鮮度で九州から仕入れるなど、コストの安い液卵や破卵には見向きもしない。

生地づくりの工程では、約100キログラムの卵を割り、砂糖を入れて最初の撹拌を行う。次に、季節や天候で変化する小麦粉の湿り気を手触りで確認し、長年の勘で水の量を加減して配合する。仕上げの撹拌作業では、練り上がりを調整しながら、丹念に仕上げていく。毎朝5時過ぎには工場に入り、生地の仕込みを始める生活を40年近く繰り返してきた。今岡氏は、「その日に使う分だけ仕込んで作り置きはしない。煎餅の味と風味を決定づけるのは素材の鮮度であり、生地の状態に大きく左右される」と力を込める。

香ばしい煎餅に焼き上げる工程では、焼成機に備え付けられた34丁の鉄板に丁寧に油をひく作業が重要になる。「1枚1枚の鉄板の状態を見極めながら油の量とひき方を加減しており、毎日の経験がマニュアルでは伝えきれない勘所を教えてくれる」と語る。その厳しい表情から、手間暇を惜しまず、納得のいく煎餅づくりに人生を懸けてきた職人の気概が伝わってくる。

主要な取引先は、大手スーパーや全国の生協であり、急な大量発注も珍しくはない。限られた生産設備の中で対応していくのは容易ではないが、「当社に対する信頼を守り抜くため、厳しい注文で徹夜が続いても必ず納期には間に合わせる」と表情を引き締める。取引先の厳しい要求に応え続けなくてはならない卸問屋での経験が、どんな注文でも必ず納品してみせるという姿勢を支えている。「作り手と卸売の両方を経験しており、小売店に早く納品したいという卸先の気持ちも理解できる。取引関係を長く続けるには、相手の立場や気持ちに配慮することが大切だ」と語る。

製造業である同社は、消費者と接する機会は少ないが、消費者から “昔に食べたことがある懐かしい味で本当に美味しかった”と工場に感想が直接寄せられることもあるという。「美味しかったという一言で毎日の苦労が報われる。煎餅づくりに打ち込んできた日々を誇らしく感じさせてくれる瞬間であり、これから長く続けていく励みにもなる」と柔和な笑みを浮かべる。

神戸の銘菓である瓦煎餅を支える工場は、最盛期には市内に200を数えたが、先行き不透明な景気情勢と長引く消費低迷に加え、最新の製造機械が装備された大手メーカーとの激しい価格競争に晒され、市内の工場数は大きく減少している。地域に根差した小さな菓子工場の経営環境は、より一層厳しさを増してきた。今岡氏は、「同業者の廃業が更に増えるかもしれないが、環境の変化を気にしても仕方がない。これからも変わらず、手間暇をかけた煎餅づくりに邁進していくだけ」と自然体を強調する。

最近では、同社の看板商品である瓦煎餅に加えて、ピーナッツ煎餅やビーンズ煎餅も新たな定番商品として、取引先からの受注が増えてきた。今岡氏は、「新商品の開発は苦にならない。イメージと一致するまで試作を繰り返し、納得のいく風味に到達する喜びは職人冥利に尽きる」と微笑む。

同社の製品は、取引先のプライベート商品として出荷されるため、同社の名前は表舞台には出ることはない。だが、長年に亘り培ってきた品質と信頼を頑なに守り続け、“独自の煎餅づくり”に没頭してきた職人の魂は製品に宿る。還暦を過ぎて、古希を迎えても、絶え間なく向上心を燃やし続ける職人の心意気に胸が熱くなった。

(経営指導員 髙森良明)