No.31

2012-10-15

株式会社ハマダ商店

代表者
濱田益朗
創業
1975年
業種
遊器具製造、管理
住所
神戸市須磨区養老町1-5-1
電話
078-732-5037
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子供の遊び・楽しみを守るプロ職人

創業者の濱田益朗氏は、日用雑貨卸問屋に10年ほど勤めた後、1965年、義兄が経営する遊器具製造管理会社に入社したが、不慮の事故で身体を痛めたため、会社を辞めて自宅療養を始めることになった。
1年間の療養生活を経ても、身体はまだ完治していなかったが、益朗氏は、「子どもたちが、自分が設置した遊器具で楽しく遊ぶ姿が忘れられなかった。前向きに人生を生きるには、自分が好きな事業を始めるしかない」と開業を決意した。

1975年に現在地で開業、遊器具を設置している学校、施設を管理する行政に独立の挨拶回りを始めると、思いもよらぬ大きな仕事を数多く任されることになった。「前職で積み重ねた遊器具管理の仕事ぶりが評価されただけでなく、大きな怪我から立ち直って独立したご祝儀的な意味合いもあった」と振り返る。

当時の学校は、今のように厳重に鍵が掛かっていなかった時代であり、益朗氏の気さくな性格も手伝って、学校の近くを通るついでに運動場に立ち寄り、遊器具を勝手に点検して不具合が見つかれば、ワゴンに積まれた工具で修理を繰り返した。「危なっかしい遊具があれば、放っておけないのが性分だ」と屈託のない笑みを浮かべる。

小学校の職員室に挨拶に行く時には、遊器具の直した箇所を説明するだけでなく、子供が使う際の注意点などを詳しく話し込んでいくうちに、自然と学校の先生から頼りにされるようになった。懇意にしていた先生が他の学校に転勤になっても、“遊器具のことならハマダさん”と次々と申し送りされ、転勤先でも新たな取引が始まるなど、仕事は順調に増えていった。

安全な遊器具の管理を行うには、異常を敏感に察知する感性が重要だという。その感性を濱田氏は「職人の勘働き」と呼ぶ。これは、経験を積み、体で覚えていくものであり、阪神大震災で公園のシェルター(休養施設)が倒れたとき、その表面を益朗氏が指で触わっただけで内部の不具合が分かったという。「余り物のパイプを溶接して繋げ、表面を処理して誤魔化していた。見えないからと手を抜く業者は許せない」と険しい表情で語る。

特に、遊器具は、丁寧な溶接を行わないと遊んでいる子供の手足を傷つけることもあり、細心の注意が必要である。事前に、遊器具自体の構造、子供の遊器具の使い方などの知識がないと、異常を発見することは難しい。製造者が安全で問題ないと考えていても、思いも寄らない事故が起こることもある。子供の命を奪う悲しい事故を新聞記事で見ると胸が張り裂ける思いになるという。

開業から40年近くを経て、現在では、神戸市内で1,600ヶ所、芦屋市内で80ヶ所の小学校、公園等の遊器具の管理を同社が行っている。2,000近い数の施設管理は大変だが、管理の外部委託は一切行わず、全て直接管理しているという。外部に任せると、目が届かなくなり、きめ細かい施設管理ができなくなるからである。ここにも「誠心誠意、責任を持って仕事をする」という益朗氏のモットーが貫かれている。

また、遊器具の修理のついでに造園の手直し等を頼まれる機会も多く、業者に頼みづらい小さな工事であれば、その場で素早く対応してしまう。こうした迅速、臨機応変な対応が顧客の信頼を呼び、芝生や庭の剪定など、同社が請け負う仕事の幅は着実に拡がっている。

同社では、何度となく細かな修繕を重ねながら、何十年経っても飽きがこない、地元の子供たちに愛される遊器具を送り出してきた。益朗氏は、「今は何でも壊れたら捨てるという時代だが、世代を超えて愛される遊器具で遊ぶ子供の笑顔を見ると、これまでの苦労も吹き飛ぶ」と笑顔を見せる。

息子の健一郎氏は、当社の後継者として、2003年から専務に就任した。幼少の頃より、父の仕事を間近に見ながら、自然と家業を引き継ぎたいと意識し始めたという。大学の園芸学部で実践的な理論を学び、造園業界で修業を積んだ後、満を持して同社に入社した。益朗氏は、各部門の仕事を健一郎氏に少しずつ習得させながら、職人との信頼関係を築かせたという。健一郎氏は、「最初は職人の世界に戸惑ったが、徐々に周りから受け入れられるうちに手応えを感じた」と自信を見せる。今では、職人からの信頼を得た健一郎氏に経営の全権を委ねている。さらに、益朗氏が業界の発展のために尽力してきた日本公園施設業協会(遊具の設計、製造、販売、施工、点検、修繕を行う企業を認定している自主規制の民間団体)の本部理事に就任し、行政に向けた維持点検方法の講習会などの講師も務めるようになった。

近年、国の政策も公園の遊器具を管理修繕し、安全に長く使っていくという流れに変化してきた。この方針は、「設計、デザイン、製造、管理」と一連の流れを大切にし、維持管理を得意とする同社の経営理念にも合致している。効果的な点検、修理のためには、遊器具がどのように作られ、子供がどのように遊んでいるかなどの知識が不可欠である。健一郎氏は、「遊器具を作り、子供の使用法を熟知する創業者の知恵と感覚は唯一無二の財産。それを発展させるのは自分の使命だ」と力を込める。未来を担う子どもたちの健全な発育のため、地域の子供たちをひそかに見守り続けてきた親子は、今日も優しい目線で遊器具を厳しく点検する。

(経営指導員 納田秀史)